【双極性障害】過度なイライラや衝動、落ち込みなど、感情が大きく変化します
気分が変わりやすいのは性格の問題ではありません
人は誰しも元気な時とあまり元気のない時があります。しかし、感情の揺れ幅が大き過ぎる・頻繁に気分が上下するといった場合には、単なる気分屋ではなく双極性障害かもしれません。
またうつ状態から自然に回復し、やる気がみなぎってきたという場合も双極性障害の可能性があります。
双極性障害は躁うつ病とも呼ばれ、日本人で発症する人の割合は、1,000人のうち4~7人といわれています。
うつ病の患者数(100人中3~7人)と比べると少ないですが、双極性障害の患者数について本格的な調査が行なわれていないのが現実。
また双極性障害の診断は難しく、はじめはうつ病と診断されたけど後で双極性障害だとわかったというケースも。
うつの症状で受診したひとの16%は、双極性障害だと言われています。
症状|気分の高まりと落ち込みが定期的に入れ替わります
双極性障害は、気分が高まる時期(躁状態)と落ち込む時期(うつ状態)を繰り返す病気です。
一般的にうつ期は数ヵ月~6ヵ月ほどで、長い場合には数年続きます。躁状態は1週間程度と比較的短期間で終わります。
うつ状態の特徴 ▶ うつ病の症状と似ています
憂うつな気分が続く、表情が暗い、涙もろい、何に対しても興味や意欲が湧かない、不眠または仮眠、死にたい気持ちになる、飲酒量が増える など
躁状態の特徴
眠らなくても元気に活動できる、どんどん新しいアイデアが浮かぶ、高額な買い物やギャンブルをする、ずっと話し続ける、怒りっぽい、性的に奔放になる
病気だと自覚・診断されやすいのは、うつの時期です。
しかし躁状態に変化するとエネルギーが満ちて活発に行動できるようになるため、「うつが改善した」と勘違いしてしまうケースがほとんど。
心の病気だと自覚することは難しく、医療機関を受診してもうつ病と誤診されやすいのが双極性障害の特徴です。
躁の度合いによってⅠ型とⅡ型に分類します
双極性障害は、躁の症状が大きく現れるⅠ型と躁が軽めのⅡ型に分けられます。
Ⅰ型 | Ⅱ型 | |
---|---|---|
躁の度合い | 激しい | 穏やか |
症状 | 多幸感、万能感、多弁、性的逸脱、睡眠時間の大幅な減少 | 気力や体力の充実、自分に自信が持てる、仕事の効率が上がる |
自覚 | 病気だと認められない | 調子がいい |
影響 | 問題行動をとることが多く、家庭や社会生活に悪影響 | 社会的に成果を発揮しやすく、心地よく過ごせる |
躁が強いⅠ型は、周囲から見てもわかるほどエネルギーが過剰に高まります。
自分は無敵だと思っているため問題行動が多く、家庭や社会での生活に大きな影響をおよぼします。
反対にⅡ型の躁は、調子がいい状態だと捉えられる程度。
普段よりも効率よく仕事ができたり成果を発揮しやすくなったりと、心地よく過ごせる期間でもあります。
だからといって、Ⅱ型の方が病状が軽いというわけではありません。
Ⅰ型 > 躁による言動・行動のせいで社会的な信頼を失いやすい Ⅱ型 > うつの時期が長く自殺のリスクが高い
どちらも日常生活や人生への影響は大きく、正しい診断と適切な治療が欠かせません。
気分の変調が行動の大きな変化を招いていると感じたら、早めに精神科か心療内科を受診しましょう。
躁とうつが混在する症状、気分の変動が頻繁な症状もあります
双極性障害は躁とうつが定期的に入れ替わる病気ですが、気分の高まりと落ち込みが混在するケース=混合状態もあります。
混合状態
- 憂うつな気分なのに焦燥感からじっとしていられない
- 意欲的に活動していたのに涙ぐむことがある
混合状態になると、躁とうつの入れ変わりペースが早い急速交代化(ラピッドサイクリング)を招きやすくなります。
ラピッドサイクリング
- 1年に4回以上うつと躁を繰り返す
- 極端な躁やうつを招きやすい
ラピッドサイクリングはⅠ型とⅡ型のどちらでも起きる可能性があり、双極性障害患者の10人にひとりが発症。
症状が現れた人をラピッドサイクラーといい、気分の変動が多い分、精神的に大きな負担を感じやすくなります。
原因|脳内物質の調節異常、養育環境、生活環境が大きく関わっています
双極性障害は、脳内部質の分泌量が正常ではないことや育った環境、現在の生活環境などいくつもの要因が合わさって発症すると考えられています。
脳内物質の調節異常 | 養育環境 | 生活環境 | |
---|---|---|---|
要因 | 感情に影響する物質の量が不安定 | 過干渉、批判的に育てられた | ストレスを受けることが多い |
影響 | 感情のコントロールがうまくできない | ストレスによる影響を受けやすくなる | うつ症状の発症や再発を招きやすい |
脳内物質(ドーパミン)の量が影響しています
感情の変動には、ノルアドレナリンとドーパミンという脳内物質が関わっています。
・ノルアドレナリン/緊張、集中している時に分泌される
・ドーパミン/興奮や快楽、意欲などを高める
・セロトニン/ノルアドレナリンとドーパミンのバランスを保つ
双極性障害は、脳内物質のバランスが乱れて感情のコントロールが効きづらい病気です。
ドーパミンの働きが増幅=躁
ドーパミンの働きが低下=うつ
さらに、躁とうつの繰り返しによってそれぞれの反応が増強され、症状は悪化してしまいます。
育った環境や遺伝的な要素が大きいと考えられます
過保護な養育環境や批判的な親子関係は、双極性障害を発症する大きな要因だと考えられています。
子どもの時期にストレスを感じることが多いとストレス耐性がつかないまま成長、精神的に安定しづらい大人になってしまうのです。
双極性障害は親から子へ受け継がれる病気ではありませんが、双極性障害の発症リスクが高い遺伝子については研究が進められており、一卵性双生児がふたりとも発症する確率は36~80%。
異なる遺伝子を持つ二卵性双生児では7~13%です。
しかし一卵性の場合でも100%の発症率ではないことから、かならずしも遺伝だけが原因ではないと言えます。
ストレスが多い生活は発症リスクを高めます
家庭や職場などで感じるストレスが多いと、うつ症状を発症しやすくなります。
また、家族の感情表出が多い(High Expressed Emotion:HEE)と精神的な影響を受けやすく、発症や病状の悪化リスクを高めます。
対策|薬物療法と心理教育が必要です
双極性障害の治療は、気分安定剤や抗精神病薬を用いた薬物療法と病気を理解し受け入れるための心理教育の2本柱で進めます。
双極性障害は、自然治癒する病気ではありません。精神科医の指導のもと、時間をかけて治療を続ける必要があります。
躁の状態で放置すると家族や仕事とのあいだに大きなトラブルを生じやすく、うつの状態では人生に対する意欲や希望を失ったまま毎日を過ごすことになってしまいます。
双極性障害を治療する目的
- 躁とうつの振れ幅を小さくする
- 症状が起きていない状態を長く保つ
治療を続けることで気分の波が穏やかな状態をキープし(=寛解)、症状の再発防止を目指します。
薬の力を借りて、気分の変動を小さくしていきます
双極性障害の治療薬には、気分安定剤と抗精神病薬の2種類があります。
気分安定剤 | 抗精神病薬 | |
---|---|---|
役割 | 気分の上下変動を小さくする | 躁を穏やかにする |
商品名 | リーマス テグレトール デパケン ラミクタール など |
エビリファイ リスパダール ジプレキサ など |
症状の度合いに応じて、気分安定剤のみを使用する場合と抗精神病薬を併用する場合があります。
自分の病気を正しく理解し向き合いましょう
双極性障害は病気ではなく性格だと捉えられがちですが、「自分の言動や行動の原因は病気にある」と正しく認識し受け入れることが大切です。
心理教育は、双極性障害について学んで正しく知るために行なわれます。
とくに治療初期が重要で、睡眠のリズムや気分の変調について記録を残し、自分の状態を客観的に捉える訓練をします。
ほかに、うつ期でも肯定的な考え方ができるように促していく認知療法や家族の理解と協力を得るための家族療法を行なう場合もあります。