【うつ病】脳の機能トラブルが気分の落ち込みや意欲低下を招きます
うつ病とネガティブな性格は違います
やる気がない・憂うつになる・悲観的に考えてしまうといった状態は一時的な気分や性格的なケースもあり、多くの人が経験する感情のゆらぎです。
しかし憂うつな気分が1日中続いている、かつ落ち込んだ状態が2週間以上続いている場合は、うつ病の可能性大。なるべく早めに医療機関を受診しましょう。
うつ病にかかる人の数は年々増加しており、日本人の100人中3~7人がうつ病を経験しているという調査結果があります。
また男女で比べると、女性の患者数は男性の1.6倍。
女性はホルモンの変動によって心の状態が移ろいやすく、ライフステージの変化も多いことからうつ病の発症リスクが高まると考えられています。
症状|心と体の両方に不調が現れます
うつ病は心の病気として広く知られていますが、症状は肉体にも現れます。
「ちょっと疲れているだけ」「イヤなことがあった」といった場合、不調は一時的なもので時間が経てば気分や体調は回復していきます。
しかしうつ病の場合は、脳の働きが低下しているため自力で元気を取り戻すことは困難。専門家によるカウンセリングや投薬治療などを通して、じっくりと時間をかけて向き合う必要があります。
精神の症状
意欲がなくなる、何も楽しめない、口数が減る、悲観的にしか考えられない、気分が落ち込む、無関心になる、不安やイライラが強くなる、飲酒量が増える、死にたいと思う
体の症状
食欲の低下、過食、頭痛、疲労・倦怠感、吐き気、息苦しい、肩こり、耳鳴り、下痢・便秘、生理不順、性欲減退、不眠または過眠
うつ病と憂うつな気分(抑うつ状態)の違い
憂うつな状態が気分によるものなのか病気なのかを判断する際には、落ち込みがどのくらいの期間続いているかをチェックします。
ほとんど1日中気分落ち込んでいる、または1日中何に対しても興味が湧かず喜びを感じないという状態が2週間以上続いている場合には、うつ病と診断されます。
また、憂うつな状態(抑うつ状態)とうつ病の違いは、日常生活への影響度合いや自殺願望の有無などにも現れます。
うつ病(病気) | 抑うつ状態(気分) | |
---|---|---|
症状の度合い | 強い | 弱い |
きっかけ・原因 | 明確なきっかけがある人もいればない人もいる | はっきりとした原因がある |
日常生活 | 気持ちが影響し、大きく変化する | 大きく変化することはない |
状態の持続性 | 長く続く | 少しずつ軽くなる |
周囲からの共感 | 理解されないことが多い | だいたいは理解される |
自殺願望 | 考えることがある | ほとんど考えない |
原因|うつ病には、環境・脳内の変化・性格が大きく影響します
うつ病が起こる仕組みは明確には解明されていませんが、現在考えられているおもな原因は環境・脳内物質の変化・性格の3つです。
脳内物質の変化
脳内で情報の伝達を担っている神経伝達物質・モノアミンの働きが低下すると、感情や思考をコントロールしづらくなります。
環境
大切な人との離別や死別、仕事や財産を失う、職場や家庭における役割の大きな変化など、心理的にストレスを感じやすい環境下ではうつ病を発症しやすくなります。
性格
まじめで責任感が強い、完璧主義、社交的で明るく振るまっているけど寂しがりやな面もあるといった人は、心のエネルギーを消費しやすいのでうつ病のリスク大。体の疲労やストレスによってエネルギーの回復が遅れると、うつ病を発症しやすくなります。
複数のきっかけが絡み合って発症する場合が多く、一つの原因を解決すれば症状も治まるというわけではありません。
まずはうつ病になってしまった原因を探り、一つひとつの問題を根気強く解きほぐしていく必要があります。
女性がうつ病になりやすい理由
男性と比べて女性のうつ病患者が多いのは、女性特有のホルモンバランスが大きく影響しているためだと考えられています。
また、結婚や出産、育児、子どもの進学・自立といったライフイベントによる影響を受けやすいのも理由のひとつです。
思春期 | 出産・子育て期 | 更年期 | |
---|---|---|---|
ホルモンの状態 | 女性器が未成熟で、ホルモンの分泌が不安定 | 女性ホルモン量が急激に変化する | 女性ホルモンの減少 |
現れやすい症状 | 気分の落ち込み 意欲の低下 自傷、暴力 |
不眠 食欲の低下 疲労 涙もろい 焦燥感 |
不眠 不安 無気力 |
影響 | 不登校 引きこもり |
ネグレクト 虐待 心中 |
更年期障害の悪化 |
女性のうつ病は、PMS(月経前症候群)や更年期障害との区別がつきにくい点には注意が必要です。
また、PMSや更年期障害が原因でうつ病に発展することもあるため、心のコンディションが不安定だと感じたら婦人科や精神科を受診してみましょう。
▶ PMSとは?
治療|服薬とカウンセリング、休養が必要です
うつ病の治療に必要なのは、薬物療法と精神療法、そして休養です。
うつ病は脳の働きがアンバランスになっている状態なので、そのままの生活を続けると脳はどんどん疲弊してしまいます。
医薬品や専門家の力を借りることに加え、休むことは怠けではなく治療の一環。まずは心と体をしっかり休ませましょう。
薬物療法の役割
気分の落ち込みや緊張、不眠といった症状を改善します。再発予防のために服薬を続ける場合もあります。
精神療法の役割
うつ病の原因だと考えられるできごとと向き合って対処法を学び、調子のいい状態を長く維持できるようにします。
休養の役割
疲れ切った心のままで頑張り続けると、病状を大きく悪化させてしまいます。思い切って体を休ませることは、心のエネルギー補充にも繋がります。
薬物療法や精神療法は、医師の指導のもと行なわれます。
うつ病という診断が下りてから回復するまでにかかる期間は、4~6ヵ月以上。
数年かかるケースもあるため、焦らずじっくりと治療を続けることが大切です。
また回復した後は、再発に備えた治療や生活を続ける必要があります。
専門的な治療
うつ病の治療は、薬物療法と精神療法の両方を平行して行います。
薬物療法で用いる薬は、主に精神安定剤(抗不安薬)と抗うつ剤の2種類です。
精神安定剤(抗不安薬) | 抗うつ剤 | |
---|---|---|
飲み方 | つらい時に服用する | 毎日決まった量を服用する |
効果 | 強い不安や緊張を軽減させる | バランスの崩れた脳内環境を元に戻す |
副作用 | 眠気、ふらつき、全身の倦怠感など | 眠気、だるさ、頭痛、吐き気、口の渇きなど |
抗うつ剤の服用を続けても改善がみられなければ、抗うつ剤の作用を高めるために抗精神病薬(統合失調症の薬)を用いる場合もあります。
また精神療法ではおもに、認知行動療法と対人関係療法が行なわれます。
いずれも、医師やカウンセラーなど専門的な知識を持っている人との対話を通して、自分自身の問題や置かれている状況を見つめることで、症状の改善を目指します。
認知行動療法
否定的な考え方を柔軟な考え方に変えていく
対人関係療法
人間関係と症状の関係性を理解し、対処法を見つけ出す
自分でできる再発予防
うつ病は再発しやすいため、治療が終わったあとも心のバランスを崩さない生活を心がけましょう。
健やかな心をキープする基本は、睡眠や食事に気を配って規則正しい生活を送ることです。
・十分な休養をとりましょう
仕事や学校、家庭生活など、忙しいからといって無理をして頑張り続けると、ストレスや疲労が溜まってうつ病を再発しやすくなります。
「休むことは必要なこと」と、普段からしっかり意識しておきましょう。
・規則正しい睡眠リズムを身につけましょう
睡眠は、脳と体を休ませるために必要な時間です。
たくさん寝ればいいというわけではなく、毎日なるべく決まった時間に就寝・起床する習慣をつける事が大切。うまく寝つけなかったり起きる時間が早過ぎたりする場合には、再発や不眠症の可能性が。早めに医師へ相談してしてください。
・バランスのとれた食事が健康な体を作ります
食事は人間の生命活動における基本です。栄養バランスのとれた食事は、体だけでなく心の満足度も高めてくれます。
・生活のリズムを安定させましょう
朝起きて夜眠るという太陽の動きに沿った生活サイクルは、心の健康を保つためにとても重要です。
日光を浴びるとセロトニンという物質の分泌が促され、ストレスの軽減に役立ちます。また日中に分泌されたセロトニンは、眠りを促すメラトニンのもと。メラトニン量が増えれば、寝つきがよくなります。
・お酒は適量で
お酒を飲むと明るい気持ちになったり、ストレスを発散できたりといった変化が得らえますが、それは一時的なもの。
うつ病からの回復期にお酒に頼るクセがつくと、アルコール依存症を併発するリスクが高まります。
・無理のない範囲で運動を続けましょう
適度な運動は、全身の血流促進に効果的。睡眠の質が向上する・食欲が増進するほか、ストレス発散にも有効です。
ただし、運動もがんばり過ぎるとストレスや疲労の原因になってしまうため、自分の体力や気力に合った範囲で気軽に続けてみてください。